患者・ご家族からの正当な指摘とカスハラの境界線|「要求内容」と「手段・態様」で見分ける3つの判断基準

2026年09月11日

「これはカスハラなのか、それとも正当なご指摘なのか」。

この判断に悩む場面は、現場で少なくありません。

不思議なもので、この判断の難しさは、要求の内容そのものよりも「その場の気まずさ」に引きずられがちです。

強い口調で言われると、内容の当否にかかわらず「困った要求だ」と感じてしまう。

逆に、物腰は穏やかでも、内容として明らかに行き過ぎている要求を、つい受け止めてしまうこともあります。

「不快に感じたかどうか」は、実はカスハラの判断基準そのものではありません。

 

本記事は、社会保険労務士の立場から、労務管理・組織運営の観点で公表されている行政資料等をもとに一般的な考え方を整理したものです。

個別の事案がカスハラに該当するかどうかの最終判断は、必要に応じて弁護士等の専門家にご確認ください。

 

3つの判断基準

前回の記事で触れた改正法の定義を、現場で使える形に分解すると、次の3つの視点になります。

①要求内容に妥当性があるか

  • 患者様・ご家族からの指摘には、待ち時間、会計処理、説明の分かりやすさ、スタッフの接遇など、診療結果とは直接関係のない指摘も数多くあります。こうした指摘は、事実関係を確認すれば、多くの場合その場で妥当性を判断できます
  • 一方、診療結果そのものへの不満の背景に、実際の過誤や過失があるかどうかは、簡単には判断できません
  • 過誤の有無そのものの判断は、医療安全部門や医事法の専門領域です。この記事はその判定方法を扱うものではありません

②手段・態様が社会通念上相当か

  • 内容自体に理由があっても、大声・暴言・威圧的な態度・長時間の拘束といった手段は、社会通念上相当な範囲を超えていると評価されます
  • 逆に、内容に妥当性がなくても、冷静に伝えられている場合は、この基準単体では直ちにカスハラとは言えません

③その手段・態様によって、就業環境が実際に害されているか

  • スタッフが安心して働ける環境が損なわれているかどうかも、判断の一要素です

 

組み合わせで考える-4つのパターン

①と②を掛け合わせると、次の4パターンに整理できます。抽象化した例で見てみます。

内容も態様も相当な場合

治療結果に納得がいかず、「どういう経過だったのか、詳しく説明してほしい」と冷静に求める。

これは正当なご指摘であり、丁寧な説明で応じるべき場面です。

内容は相当だが、態様が不相当な場合

説明を求めること自体は正当でも、それを大声で怒鳴りながら執拗に繰り返す場合は、態様の面でカスハラに当たり得ます。

内容が不相当だが、態様は相当な場合

過誤が確認されていないにもかかわらず、冷静な口調で多額の金銭を要求する。

物腰が穏やかであっても、内容自体に妥当性がなければ、カスハラに当たり得ます。

内容も態様も不相当な場合

過誤が確認されていない診療結果について、大声で暴言を交えながら金銭を要求する。

典型的なカスハラに当たるケースです。

 

対応にミスがあった場合でも、カスハラは許されない

ここは誤解されやすいポイントです。

仮に医療機関側の対応に落ち度があったとしても、それによって暴言や威圧的な態度まで正当化されるわけではありません。

要求内容に理由がある場合でも、手段・態様が不相当であれば、その部分はカスハラとして扱われます。

 

まとめ

カスハラかどうかは、「その場でどう感じたか」ではなく、「要求の中身」と「伝え方」という2つの軸で、落ち着いて切り分けて考える必要があります。

この整理を院内で共有しておくことが、現場の判断のばらつきを防ぐ第一歩になります。

 

すずえ社会保険労務士事務所では、病院・医療法人向けに、カスハラ基本方針・対応マニュアルの策定、就業規則の見直し、院内研修の講師を承っております。まずはお気軽にご相談ください。

鈴永 眞

同志社大学法学部卒業後、中小企業マーケットに特化した大同生命保険株式会社に入社。
東京、京都などの営業拠点で販売、社員育成、組織運営に従事。
その後、医療系スタートアップの立ち上げや全国規模の医療グループのM&Aを経験し、組織を動かすのは結局のところ「人」であると実感。
2019年に社会保険労務士として登録し、2021年からは病院・医療法人の労務課題に特化した支援に専念している。

 

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