「うちに限って、そんなことは起きないだろう」とは、もはや言えない状況です。
些細な迷惑行為はどの医療機関でも起こり得るものですし、業界内での情報共有も進んでいます。
実際、院内掲示による注意喚起は、すでに多くの医療機関で行われています。
ただ、掲示をしているにもかかわらず、実際にトラブルが起きた際に「そこまでは想定していなかった」という場面に出くわすことがあります。
掲示はしていても、入院時の同意書までは整備していない。
掲示の内容と、実際に現場で行われている対応が一致していない。こうした「掲示止まり」の状態が、いざという時の対応を難しくしてしまいます。
本記事は、社会保険労務士の立場から、労務管理・組織運営の観点で公表されている行政資料等をもとに一般的な考え方を整理したものです。個別の書式・文言の法的な有効性については、弁護士等の専門家にご確認ください。
院内掲示の作り方(見直しのポイント)
医療機関には、療養環境を整える義務とあわせて、施設管理権に基づき院内のルールを定める権限があります。
多くの医療機関ではすでに何らかの掲示がなされていると思いますが、実際にトラブルが起きた際、その掲示内容に基づいた注意ができる状態になっているか、次の観点で見直しておくことをお勧めします。
掲示に盛り込みたい項目の例
- 職員や他の患者への強要・脅迫行為
- 暴力・暴言・大声、その他の威嚇行為
- 許可のない撮影・録音、およびその内容をインターネットに公開する行為
- 敷地内での飲酒・喫煙
- 迷惑行為があった場合に警察へ通報すること、診療をお断りする場合があること
掲示は、各医療機関の実情に応じて項目を取捨選択し、ホームページにも同じ内容を掲載しておくと、より効果的です。
入院時の誓約書・同意書の活用法
新規入院時に、迷惑行為の禁止事項を含む同意書へのサインをお願いしておくことも、有効な予防策です。
なお、ここでいう同意書は、治療内容についての医的な同意書(インフォームドコンセント)とは別のものです。
院内ルールの遵守についての同意書であることが伝わるよう、書式のタイトルや説明の仕方に注意しておくと、患者様側の誤解も防げます。
実際にトラブルが起きた後に個別の誓約書を交わす場合と異なり、入院前の段階で全ての患者様に一律にお願いするものなので、「特定の人だけを疑っている」という印象を与えにくいという利点もあります。
盛り込みたい要素の例
- 禁止事項の内容(院内掲示と統一しておく)
- 違反があった場合、診療をお断りする可能性があること
- 違反があった場合、警察への通報等の措置を行う可能性があること
※以下は運用上の注意点の整理です
署名を拒否された場合に、それだけを理由に診療そのものを断れるかどうかは、個別の状況によって判断が分かれます。
同意書の文言や運用方法は、必ず事前に顧問弁護士のチェックを受けておくことをお勧めします。
外国人患者向けの多言語対応
近年は、日本語を母語としない患者様への対応も課題になっています。
厚生労働省が公開している外国人向けの入院申込書・誓約書の例や、自治体が作成した多言語ポスターなどを参考に、あらかじめ準備しておくと安心です。
- やさしい日本語(平易な言い回し)での掲示を用意する
- 主要な言語(英語・中国語等)の掲示・書式もあわせて準備する
- 通訳サービスの利用方法についても、掲示の中で案内しておく
言葉の壁があることを理由に、ルールの周知そのものを諦めてしまうと、後になって「知らなかった」というトラブルの原因になります。
「掲示するだけ」で終わらせない運用
掲示や誓約書は、作って終わりにせず、実際に機能する仕組みとして運用することが重要です。
- 定期的に内容を見直し、実情に合わない項目がないか確認する
- 新しく入職したスタッフにも、掲示・誓約書の内容と、違反があった場合の対応フローを周知する
- 掲示の内容と、実際の現場対応に食い違いがないようにする(掲示では警告するとしているのに、実際には何も対応しない、という状態を避ける)
まとめ
院内掲示という取り組み自体は、多くの医療機関ですでに実施されています。
大切なのは、そこで足を止めず、入院時の同意書や、掲示内容と現場対応の一致まで含めて「実際に機能する仕組み」に仕上げておくことです。
起きてからでは遅い、という前提に立ち、一歩先の備えを整えておくことが重要です。


