「マニュアルさえあれば、現場は安心して対応できる」。
そう考えて対応マニュアルを整備しても、実際にはあまり機能しないことがあります。
その原因の多くは、マニュアルの「具体性」にあります。
たとえば「クレームが長時間続いたら打ち切る」というルールは、一見マニュアルらしく見えますが、「何分から長時間なのか」を結局その場のスタッフが個別に判断しなければならず、実務的にはほとんど機能しません。
今回は、電話・対面それぞれの初期対応と、実際に使える「打ち切り」の判断手順を整理します。
電話対応で押さえておきたいポイント
「最初に出るのは受付」という前提で設計する
病院の電話対応マニュアルには、独自の難しさがあります。
職員数がある程度多い中規模以上の病院では、電話は最初に受付に繋がり、そこから関連部署へ転送される構造になっていることがあります。
受付は苦情の内容そのものに答えられる立場ではありませんが、電話対応における最初の関門であり、極めて重要なポジションです。
つまりマニュアルは、医療の専門知識を持つ担当者ではなく、内容を判断できない受付スタッフでも迷わず動けるものでなければなりません。
受付に求めるべきは、内容の当否を判断することではなく、「攻撃的な言動があった」という事実に気づき、その事実を転送先に一言添えて引き継ぐことです。
たとえば「態度が強い方からのお電話です」と一言添えるだけでも、転送先の心構えが変わります。
受付自身が恐怖を感じるような言動を受けた場合は、無理に会話を続けさせず、「担当の者に確認いたしますので、少々お待ちください」と伝えて、いったん保留にしてよいというルールも、あらかじめ共有しておくと安心です。
非通知番号への対応ルールを決めておく
執拗な迷惑電話は、非通知設定でかかってくることがあります。
「非通知の電話には出ない」という社内ルールをあらかじめ定めておくだけでも、一定の抑止効果が期待できます。
録音を告知するアナウンスを入れる
電話がつながった際に「この通話は、品質向上のため録音させていただきます」という自動音声を流す仕組みは、証拠の確保だけでなく、相手への抑止効果としても有効です。
あらかじめ告知したうえでの録音なので、対面での録音と違って気兼ねなく導入できます。
対面対応で押さえておきたいポイント
複数名で対応し、役割を分ける
対応は複数名(2名以上)を基本とします。1名が発言し、もう1名は発言を控えて聞き役に徹すると、相手の話のすり替えや矛盾に気づきやすくなります。
メモを正確に取る
電話は相手と1対1になりやすく、後から内容を確認しづらいことがあります。発言内容は、可能な限りその場でメモに残してください。
対面での録音についても、対策として有効ですが、相手の同意を得ていない録音には、個人情報保護やプライバシーの観点から慎重な判断が求められる場面もあります。
運用ルールは、事前に顧問弁護士へご確認ください。
「打ち切り」を判断する手順
固定の時間ではなく、やり取りの中身で判断します。
十分な説明を尽くしたにもかかわらず、同じ要求や同じ話が繰り返される段階に入ったら、それ以上の対応には実務上の意味がなくなります。
この判断は、受付ではなく、内容を理解している転送先の部署・担当者が行います。
受付の役割はあくまで事実を引き継ぐところまでで、打ち切るかどうかの判断まで背負わせないことが重要です。
その際は、まず「その件については、既にご説明した通りです」と伝えます。
それでも同じ要求が続くようであれば、「これ以上、同じ内容を繰り返される場合は、対応を打ち切らせていただきます」と伝え、実際に打ち切ります。
あらかじめ、このような一連の流れを組織内の言い回しとして共有しておくと、現場のスタッフが個人の判断で悩まずに済みます。
ここで一点、注意が必要です。
打ち切るのは、あくまで迷惑行為に対する対応であって、診療そのものの求めではありません。
電話の相手が同時に診療を必要としている場合、その部分への対応まで一律に打ち切ってしまうと、応召義務との関係で問題が生じかねません。
迷惑行為の部分と、診療の求めの部分は、分けて対応することを意識してください。
威嚇・脅迫を受けた場合の対応
大声や威圧的な態度で恐怖を感じた場合は、我慢せずに「そのような話し方では、お話しできません」と伝えます。
それでも継続するようであれば、恐怖を理由に対応を打ち切って構いません。
この場面での対応記録は、後の判断のためにも重要です。
まとめ
初期対応マニュアルは、固定的な数字のルールではなく、「何が繰り返されたら区切るか」という中身に基づいて作ることが重要です。
電話・対面それぞれの特性を踏まえた具体的な手順を、あらかじめ組織内で共有しておきましょう。


