【就業規則・服務規律の改定】カスハラからスタッフを守る&自院スタッフの加害を防ぐ院内規程の条文例

2026年09月14日

就業規則の見直しをご相談いただくとき、多くの場合「患者様・ご家族からスタッフを守るため」という視点だけで話が進みます。

しかし、医療機関は医薬品卸、給食委託業者、清掃業者など、多くの外部業者と日常的に取引をする「顧客」の立場でもあります。

用度課や経理担当者が業者に対して行う言動が、逆に相手先の従業員へのカスハラになってしまう可能性があることは、意外と見落とされがちです。

今回は、就業規則・服務規律の改定について、この両方の視点から整理します。

 

就業規則の改訂は必須なのか

厚生労働省の見解では、信用失墜行為や服務規律違反に対する既存の懲戒規定に基づいて必要な措置を講じることができるのであれば、必ずしもカスハラ独自の規定を就業規則に新設する必要はないとされています。

ただし、既存の規定は「懲戒事由」を定めているだけのことが多く、「相談したことで不利益な扱いを受けない」という、スタッフを守るための規定までは含まれていないケースがほとんどです。

この部分は、明文化しておくことをお勧めします。

 

条文例①:相談等を理由とする不利益取扱いの禁止

法律上、カスハラの相談や事実確認への協力を理由に、解雇その他の不利益な取扱いをしてはならないとされています。

就業規則や服務規律に、次のような規定を加えることが考えられます。

(カスタマーハラスメントに関する相談等を理由とする不利益取扱いの禁止)
第○条 職員が、患者様・ご家族等からのカスタマーハラスメントに関して相談を行い、又は事実確認等に協力したことを理由として、解雇その他不利益な取扱いを行わない。

 

条文例②:自院スタッフが加害者にならないための規定

前段でお話しした「顧客としての自院」の視点です。既存の服務規律に、次のような一文を加えておくことで、取引先への言動についても行動規範を明確にできます。

(取引先等への適切な対応)
第○条 職員は、業務上関係を有する事業者及びその従業員等に対し、社会通念上相当な範囲を超えた言動を行ってはならない。

この規定に実効性を持たせるには、既存の懲戒事由(信用失墜行為等)の条文で、この規定への違反も対象となることを確認しておくか、懲戒事由の条文に一文を追記しておく必要があります。

禁止するだけで、違反時の扱いが宙に浮いた規定にならないよう注意してください。

 

規定を追加する際に必要な手続き

条文の文言を作成するだけでは、就業規則としての効力は生じません。労働基準法上、次の手続きを経る必要があります。

  • 労働者の過半数を代表する者(労働組合がある場合はその労働組合)から意見を聴く
  • 所轄の労働基準監督署へ届け出る
  • 職場への掲示や書面の交付等により、職員に周知する

周知を怠ると、実際に懲戒処分を行う場面で、規定の効力そのものが争われるリスクにつながります。条文の中身と同じくらい、この手続きも重要です。

 

条文だけでは不十分な理由

条文を整えるだけでは、実際の場面で機能しません。

前回の記事でも触れた通り、医療機関には応召義務との関係整理という独自の論点があり、一般的な服務規律の文言をそのまま当てはめるだけでは対応しきれない場面があります。

規程の文言は、あくまで土台です。実際にカスハラが起きた際にどう判断し、誰が対応するかという運用の仕組みは、基本方針の策定や相談窓口の整備とあわせて検討する必要があります。

この点は、今後の記事で改めて取り上げます。

 

まとめ

就業規則の見直しは「スタッフを守る」ことだけが目的ではありません。

自院のスタッフが、取引先に対して加害者にならないための視点も、あわせて盛り込んでおくことをお勧めします。

 

すずえ社会保険労務士事務所では、病院・医療法人向けに、カスハラ基本方針・対応マニュアルの策定、就業規則の見直し、院内研修の講師を承っております。まずはお気軽にご相談ください。

鈴永 眞

同志社大学法学部卒業後、中小企業マーケットに特化した大同生命保険株式会社に入社。
東京、京都などの営業拠点で販売、社員育成、組織運営に従事。
その後、医療系スタートアップの立ち上げや全国規模の医療グループのM&Aを経験し、組織を動かすのは結局のところ「人」であると実感。
2019年に社会保険労務士として登録し、2021年からは病院・医療法人の労務課題に特化した支援に専念している。

 

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