【病院向け】カスハラ対策チェックシート|告示の10措置で自院の体制を点検する

「カスハラ対策は、一通りやっているつもりだ。

ただ、何が足りないのかは、自分たちでは分からない」。

病院の管理者の方から、こうしたご相談をいただくことがあります。

2026年10月1日から、カスハラ(ペイシェントハラスメント)の防止措置は、病院を含むすべての事業主の義務となっています。

現時点で明確な罰則規定はありませんが、対応が不十分な場合は、労働局による助言・指導・勧告の対象となり得ます。勧告に従わない場合は、公表されることもあります。

厚生労働省の指針(令和8年厚生労働省告示第51号)は、事業主が講じなければならない措置を示しています。

この記事では、その措置を10項目に分け、病院の実情に合わせて確認できるチェックシートにしました。

自院の体制を、一度点検するために使ってください。

本記事は、社会保険労務士の立場から、公開されている行政資料をもとに、病院のカスハラ対策の点検項目を整理したものです。診療の可否の判断(医師法上の応召義務を含む)、医学的な評価、個別の事案への対応については、顧問弁護士や医療安全の専門家にご確認ください。

 

このチェックシートの使い方

判定の付け方

  • ○:文書で定めてあり、職員に周知もできている。
  • △:運用はしているが、文書がない、または周知が十分でない。
  • ×:まだ整っていない。

迷ったときは、△を選んでください。

「やっているつもり」を、あとから文書と周知で固めていくのが、この点検の目的だからです。

判定は、管理者おひとりではなく、事務長、看護部長、医事課など、複数の方で付けると、現場とのずれが見えやすくなります。

 

告示が定める10の措置とは

指針は、事業主が講じなければならない措置を、次の5つのまとまりで示しています。

まとまり 措置の内容
方針の明確化と周知 ①方針を明確にして周知する ②カスハラの内容と対処を周知する
相談対応体制の整備 ③相談窓口を定めて周知する ④窓口担当者が適切に対応できるようにする
事後の迅速・適切な対応 ⑤事実関係を確認する ⑥被害を受けた職員に配慮する ⑦再発防止の措置を講ずる
抑止のための措置 ⑧特に悪質なものへの対処方針を定め、体制を整備する
併せて講ずべき措置 ⑨相談者のプライバシーを保護する ⑩相談等を理由とする不利益な取扱いをしない旨を定め、周知する

厚生労働省のマニュアルは、これらを、業種・業態を問わず、すべての事業主に課された法律上の義務としています。

以下、まとまりごとに、病院での確認項目を示します。

 

チェックシート

A 方針の明確化と周知(措置①②)

病院が「職員を守る」と決めていること、そして、それが職員に届いていることを確認します。

No. 確認すること 判定
①-1 「カスハラには毅然と対応し、職員を守る」という病院の方針を、文書で明確にしている ○ △ ×
①-2 方針を、就業規則などの文書や、院内掲示、職員向け資料などで周知している ○ △ ×
②-1 病院として、どのような言動をカスハラとして扱うか、判断の目安を示している ○ △ ×
②-2 あらかじめ定めた対処の内容を、非常勤、パート、派遣の職員にも周知している ○ △ ×

病院での注意点

  • 患者様やご家族からのご意見は、すべてがカスハラではありません。正当なご指摘と区別する考え方も、あわせて示しておくと、現場が迷いにくくなります。
  • 夜勤や当直の職員、委託先の職員にも、情報が届いているかを確認します。

B 相談対応体制の整備(措置③④)

被害を受けた職員が、迷わず相談できる経路と、受け止める側の準備を確認します。

No. 確認すること 判定
③-1 相談窓口(担当部署・担当者)をあらかじめ決め、職員に周知している ○ △ ×
③-2 夜間・休日や、外来・病棟などの現場から、窓口へ連絡する経路が分かっている(面談だけでなく、電話やメールなど複数の方法がある) ○ △ ×
③-3 カスハラに当たるか微妙な場合や、被害を見かけた周囲の職員からの相談も、受け付けている ○ △ ×
④-1 窓口の担当者が、適切に対応できるよう、対応の手順や研修を用意している ○ △ ×
④-2 相談した職員の心身の状況や受け止めに配慮して、話を聞く方法を決めている ○ △ ×
④-3 管理者が最初の受け手になる場合に、その管理者自身が相談できる窓口もある ○ △ ×

病院での注意点

  • 医療・介護分野の調査(2023年)では、カスハラを受けた職員の相談先は、窓口よりも、身近な同僚や上司に集中する傾向がありました。窓口に加えて、現場の管理者が最初の受け手になることを前提に、準備しておくことが大切です。
  • 窓口は、形式的に設けるだけでは足りず、実質的に対応できるものであることが求められています。

C 事後の迅速かつ適切な対応(措置⑤⑥⑦)

事案が起きたあとの動きを、誰が、どの順で行うかを確認します。

No. 確認すること 判定
⑤-1 事実関係を確認する担当者と手順を決めている ○ △ ×
⑤-2 日時、内容、対応の経過を残す記録の様式がある ○ △ ×
⑥-1 被害を受けた職員への配慮(管理者が代わって対応する、担当者を変える、複数人で対応する、引き離す、など)の流れがある ○ △ ×
⑥-2 心身の不調が続く場合に、産業医などの専門家につなぐ流れがある ○ △ ×
⑥-3 休業した職員が希望するときに、原職または原職相当職へ復帰できるよう支援する考え方がある ○ △ ×
⑦-1 事案を振り返り、院内で共有して、再発防止に生かす仕組みがある ○ △ ×
⑦-2 院内の対応やコミュニケーションに原因があったと分かった場合に、それ自体を改善する考え方がある ○ △ ×

病院での注意点

  • 事実が確認できなかった場合も、同様の措置を講ずることとされています。
  • 記録や共有の際は、患者様の個人情報の取扱いに留意します。
  • ⑥の詳しい進め方は、以前の記事「カスハラのメンタルケア」で整理しています。

D 抑止のための措置(措置⑧)

特に悪質な場合に、病院としてどう対処するかを、あらかじめ決めておくことを確認します。

No. 確認すること 判定
⑧-1 暴行、脅迫など犯罪に当たり得る言動について、警察へ通報する基準や手順を決めている ○ △ ×
⑧-2 警告文の発出など、特に悪質なものへの対処の方針を定め、管理者を含む職員に周知している ○ △ ×
⑧-3 その対処を行えるよう、関係する部門が連携する体制を整えている ○ △ ×

病院での注意点

  • 指針は、業種や業態によって必要な対応が異なる場合があることにも触れています。
  • 病院では、診療や入院の継続に関わる判断が含まれる場合、医師法上の応召義務などの観点が必要になります。
  • この部分は、顧問弁護士や医療安全の担当者と、あらかじめ相談して決めておくことをお勧めします。

E 併せて講ずべき措置(措置⑨⑩)

相談した職員が、安心できる環境かどうかを確認します。

No. 確認すること 判定
⑨-1 相談者の情報の取扱いについて、ルールを決めている(知る人を必要な範囲にとどめる等) ○ △ ×
⑨-2 プライバシーを保護する取扱いをしていることを、職員に周知している ○ △ ×
⑩-1 相談したことや、事実確認に協力したことを理由に、不利益な取扱いをしない旨を、就業規則などで定めている ○ △ ×
⑩-2 その旨を、職員に周知・啓発している ○ △ ×

病院での注意点

  • 告示は、不利益な取扱いをしない旨を、「就業規則その他の職場における服務規律等を定めた文書」に規定する方法を例に挙げています。
  • 就業規則がない小規模な施設では、院内規程などの文書で定める方法があります。

 

結果の見方

○△×を数えて、×と△が多いまとまりから、手をつけます。

結果 考え方
○が大半 体制の土台はできています。定期的に見直し、内容が古くなっていないかを確認してください。
△が多い 運用はあるのに、文書や周知が足りない状態です。最も着手しやすく、効果も出やすい部分です。
×が多い 指針が求める措置が、まだ整っていません。A(方針)とB(相談窓口)から、優先して整えてください。
⑩に×や△がある 就業規則などへの記載と周知が必要です。相談しやすさに直結するため、早めの対応をお勧めします。

 

10の措置の解説|なぜ必要で、どうなっていれば「○」か

チェックシートの各項目が、何を求めているのかを整理します。

「告示が示す内容」は行政資料に基づく部分、「病院での考え方」は、社会保険労務士としての実務上の整理です。

①方針の明確化

告示が示す内容

  • 「カスハラには毅然とした態度で対応し、職員を保護する」という方針を明確にして、職員に周知・啓発します。
  • 例として、就業規則などの文書への規定、院内向けの資料やホームページへの掲載、研修の実施が挙げられています。

病院での考え方

  • 方針は、短くても構いません。大切なのは、院長や理事長など、トップの名前で出すことです。
  • 「職員を守る」という言葉があると、現場は「報告しても大丈夫だ」と受け取りやすくなります。

②カスハラの内容と対処の周知

告示が示す内容

  • カスハラとは、①顧客等の言動で、②社会通念上許容される範囲を超え、③職員の就業環境が害されるもの、という3つの要素をすべて満たすものです。
  • 顧客等の苦情のすべてがカスハラではありません。社会通念上許容される範囲の正当な申入れは、カスハラに当たりません。
  • 「顧客等」には、施設の利用者とその家族が含まれます。

病院での考え方

  • 患者様の訴えには、症状や不安からくるものも多くあります。判断の目安を示すときは、「要求の内容」と「手段や態様」の両方を見る、という考え方を共有します。
  • 判断に迷う場合は、一人で決めず、管理者に引き継ぐことも、あわせて示します。

③相談窓口の設置と周知

告示が示す内容

  • 担当者をあらかじめ定める、相談に対応する制度を設ける、外部の機関に委託する、といった方法があります。
  • 形式的に設けるだけでは足りず、実質的に対応できる窓口であることが必要です。
  • 面談だけでなく、電話やメールなど、複数の方法で相談を受けられるようにします。

病院での考え方

  • 夜間や休日に被害を受けた職員が、翌朝まで連絡できないのでは、窓口は機能しません。当直の責任者を一次の受け手にするなど、時間帯別の経路を決めておきます。
  • 管理者を相談担当にする場合は、管理者自身が相談できる窓口も、別に考えておきます。

④窓口担当者の対応力

告示が示す内容

  • 担当者が、内容や状況に応じて適切に対応できるようにします。
  • 例として、人事部門と連携する仕組み、留意点を記したマニュアル、相談対応の研修が挙げられています。
  • 相談者の心身の状況や、言動を受けたときの受け止めにも配慮します。
  • カスハラに当たるか微妙な場合でも、広く相談に対応します。

病院での考え方

  • 窓口の担当者が、「それはカスハラではないですよ」と、その場で判断してしまうと、相談しづらくなります。まず受け止めることを、基本にします。

⑤事実関係の確認

告示が示す内容

  • 事案に係る事実関係を、迅速かつ正確に確認します。

病院での考え方

  • 誰が、いつまでに、何を確認するのかを、あらかじめ決めておきます。
  • 日時、場所、言動の内容、居合わせた職員、対応の経過を記録する様式があると、確認がしやすくなります。
  • 患者様の診療に関わる情報が含まれる場合は、個人情報の取扱いに留意します。

⑥被害を受けた職員への配慮

告示が示す内容

  • 管理者などが被害を受けた職員に代わって対応する、被害を受けた職員と行為者を引き離す、といった措置を、事案に応じて講じます。
  • 行為者に対応する担当者を変える、複数人で対応する、産業保健スタッフなどが心身の不調の相談に応じる、といった例も示されています。
  • 暴行、傷害、脅迫などの犯罪に当たり得る言動は、警察に通報します。法的な手続が必要な場合は、弁護士に相談します。
  • 休業を余儀なくされた職員が希望するときは、原職または原職相当職へ復帰できるよう支援することも含まれます。

病院での考え方

  • 初期対応の具体的な進め方は、別の記事で整理しています。
  • 担当を代わるときは、被害を受けた職員の責任と受け取られないよう、伝え方に配慮します。

⑦再発防止

告示が示す内容

  • 方針や対処の内容を、改めて周知します。研修を改めて実施することも例に挙げられています。
  • 事案の原因や背景に、サービスや対応の問題、コミュニケーション不足があった場合は、その問題そのものの改善を図ります。
  • 事実が確認できなかった場合も、同様の措置を講じます。

病院での考え方

  • 患者様の不満の背景に、待ち時間の長さや、説明の不足がある場合があります。「カスハラかどうか」だけでなく、改善できる点がないかも振り返ることが、再発防止になります。
  • 事案は、個人が特定されない形で、院内に共有します。

⑧特に悪質なものへの対処

告示が示す内容

  • 過度な要求を繰り返すなど、特に悪質と考えられるものへの対処の方針を、あらかじめ定めます。管理者を含む職員に周知し、その対処を行える体制を整えます。
  • 対処の例として、警察への通報、警告文の発出、出入りの禁止、仮処分の申立てなどが挙げられています。
  • 業種や業態によって、必要な対応は異なります。

病院での考え方

  • 診療や入院の継続に関わる判断は、医師法上の応召義務などの観点が必要になります。顧問弁護士や医療安全の担当者と、事前に整理しておくことが大切です。
  • 現場の職員が、その場で判断を迫られないよう、「誰が判断するのか」を決めておきます。

⑨相談者のプライバシーの保護

告示が示す内容

  • 相談者の情報はプライバシーに属するため、保護に必要な措置を講じ、職員に周知します。
  • 例として、必要な事項をマニュアルに定める、窓口の担当者に研修を行う、保護していることを資料に掲載する、が挙げられています。
  • 性的指向やジェンダーアイデンティティなど、機微な個人情報も含まれます。

病院での考え方

  • 病院は、職員同士の距離が近く、噂が広まりやすい職場です。事案を知る人を、必要な範囲にとどめるルールを、明確にしておきます。

⑩不利益な取扱いの禁止

告示が示す内容

  • カスハラの相談をしたことや、事実確認に協力したことを理由に、解雇などの不利益な取扱いをしない旨を定め、職員に周知・啓発します。
  • 被害を直接受けた職員だけでなく、それを把握した周囲の職員からの相談も、禁止の対象に含まれます。
  • 例として、就業規則などの文書への規定が挙げられています。

病院での考え方

  • 相談したことで、配置や評価が不利になるのではないか、という不安があると、職員は相談を控えます。「相談しても不利にならない」と、はっきり伝えることが、相談しやすさにつながります。

点検で×や△が多く、どこから手をつければよいか迷われたときは、お気軽にご相談ください。

 

点検のあとに、何をするか

点検で見えた不足は、次の順で埋めていくと、無理なく進められます。

  1. 方針を文書にする(措置①):病院としての考え方を、短い文書にします。
  2. 相談窓口と連絡経路を決める(措置③):夜間・休日の連絡先まで決めます。
  3. 対処の手順と記録様式を作る(措置⑤⑧):対応マニュアルとしてまとめます。
  4. 就業規則に反映する(措置①⑩):相談を理由に不利益な取扱いをしない旨も定めます。
  5. 研修で職員に周知する(措置②):研修の進め方は、別の記事で整理しています。

なお、研修の実施そのものが、単独で義務付けられているわけではありません。

ただ、方針や対処の内容を職員に周知するための方法として、有効です。

 

よくある質問

Q. 小規模なクリニックでも、10項目すべてが必要ですか。

厚生労働省のマニュアルは、すべての事業主に課された義務としています。

ただし、窓口の体制や文書の作り方は、規模に合わせて簡素にして構いません。たとえば、窓口は、院長や事務長が兼ねる形でも考えられます。

Q. △ばかりでした。まず何から手をつければよいですか。

方針の文書化(措置①)と、相談窓口の周知(措置③)から始めることをお勧めします。

この2つは、ほかの措置の土台になります。

Q. 罰則はありますか。

現時点で、明確な罰則規定は設けられていません。

ただし、措置義務への対応状況は、報告の請求、助言、指導、勧告の対象となり得ます。勧告に従わなかった場合は、公表されることがあります。

また、対応を怠って職員の心身に被害が生じた場合は、安全配慮義務の観点から、責任を問われる可能性もあります。

Q. チェックシートで○が付けば、対策は十分ですか。

このシートは、指針が示す措置が、形として整っているかを確認するものです。法令への適合を保証するものではありません。

実際に機能しているかは、現場の職員に「困ったときに誰に相談するか、知っていますか」と聞いてみると、確かめられます。

 

まとめ

  • 指針が定める10の措置を、A〜Eの5つのまとまりに分けて、点検できるようにしました。
  • 判定は、○(文書と周知あり)、△(運用のみ)、×(未整備)の3段階です。迷ったら△にします。
  • ×と△が多いまとまりから、手をつけます。まずは、方針の文書化と、相談窓口の周知が土台です。
  • 病院では、夜間・休日の連絡経路と、診療に関わる判断(応召義務など)の扱いを、あらかじめ決めておくことが大切です。

自院の体制を、どこから整えるか。迷われたときは、お気軽にご相談ください。

 

参考資料

  • 厚生労働省「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和8年厚生労働省告示第51号)
  • 厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」(令和8年度改訂版)
  • 厚生労働省「事業主が講ずべきハラスメント対策パンフレット」(令和8年7月)
  • 厚生労働省雇用環境・均等局長通達「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律第10章の規定等の運用について」(令和8年4月24日)
  • UAゼンセン・日本医療労働組合連合会ほか「患者・利用者・家族からのカスタマーハラスメント調査報告書」(2023年)

すずえ社会保険労務士事務所では、病院・医療法人向けに、カスハラ基本方針・対応マニュアルの策定、就業規則の見直し、院内研修の講師を承っております。まずはお気軽にご相談ください。

鈴永 眞

同志社大学法学部卒業後、中小企業マーケットに特化した大同生命保険株式会社に入社。
東京、京都などの営業拠点で販売、社員育成、組織運営に従事。
その後、医療系スタートアップの立ち上げや全国規模の医療グループのM&Aを経験し、組織を動かすのは結局のところ「人」であると実感。
2019年に社会保険労務士として登録し、2021年からは病院・医療法人の労務課題に特化した支援に専念している。

 

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