会計窓口で、患者様から「この金額はおかしいのではないか」と詰め寄られる。
医事課のスタッフは、暴言・暴力のような分かりやすい迷惑行為だけでなく、こうした会計・レセプトをめぐるクレームにも日常的に向き合っています。
今回は、診療報酬・会計に関するクレームと、カスハラの境界について整理します。
本記事は、社会保険労務士の立場から、公開されている行政通知等をもとに一般的な考え方を整理したものです。診療報酬点数の算定そのものの正誤判断は、医事担当者・保険請求の専門知識を要する領域であり、社労士の業務範囲外です。個別の算定内容については、必ず院内の医事担当者・保険請求の専門家にご確認ください。
レセプト・会計クレームは「要求内容の妥当性」が判断しやすい
以前の記事で、カスハラの該当性は「要求内容の妥当性」と「手段・態様の相当性」という2つの軸で判断するとお伝えしました。
診療内容そのものへの不満とは異なり、会計・レセプトに関するクレームは、この2軸のうち「要求内容の妥当性」を、比較的客観的に確認しやすいという特徴があります。
診療報酬は、国が定める診療報酬点数表に基づいて算定されるものであり、個々の病院が自由に金額を決めているわけではありません。
「この計算が合っているか、間違っているか」には、本来、客観的な答えが存在するという点で、感情や印象で判断が分かれる行為の当否とは性質が異なります。
ただし、その確認自体には、点数表や加算規定に関する専門知識が必要であり、簡単に判定できるとは限りません。
差額ベッド代を例に-「実は正当な指摘だった」というケースもある
会計クレームの中には、確認してみると患者様側の指摘の方が正しかった、というケースも存在します。
代表的な例が、差額ベッド代(特別療養環境室料)です。
厚生労働省の通知(保医発0327第10号、令和6年3月27日最終改正)では、次のような場合には、差額ベッド代を求めてはならないとされています。
- 差額ベッド代の金額等が記載された同意書に、患者様の署名がない、または内容が不十分な場合
- 治療上の必要により、病院側の判断で差額ベッド室に入院させた場合(救急患者、術後で安静を要する患者等)
- 病棟管理の都合により差額ベッド室に入院させ、実質的に患者様の選択によらない場合
差額ベッド代についての指摘を受けた際、頭ごなしに「規定通りです」と応じるのではなく、まず同意書の取得状況や入院に至った経緯を確認することが必要です。
クレームだと思って身構えていた要求が、実は自院側の説明・手続き不足を指摘する、正当な内容だったということもあり得ます。
手段・態様が不相当なら、内容が正しくてもカスハラになり得る
一方で、内容の妥当性を確認する作業と、手段・態様が社会通念上相当かどうかの評価は、別の話です。
仮に病院側の算定に誤りがなかったとしても、大声で怒鳴る、長時間にわたって窓口を占拠する、担当者個人を執拗に責め立てるといった対応であれば、その手段・態様の部分は、カスハラとして扱う余地があります。
「内容が正しいかどうか」の確認と、「伝え方が適切かどうか」の評価は、切り分けて考えてください。
医事課特有の対応の難しさ
医事課のスタッフは、点数計算の専門知識を持つ一方で、金額を即座に変更する権限までは持っていないことがほとんどです。
その場で結論を急がず、一度預かって確認するという対応を、組織としてあらかじめ許容しておく必要があります。
- その場で即答せず、「確認のうえ、改めてご連絡します」と伝えることを、正式な対応として認めておく
- 差額ベッド代のように、患者様側の指摘が正当である可能性がある項目については、確認の手順をあらかじめ整備しておく
- 算定に誤りがないことを、医事担当者が院内の手順に沿って確認したうえで、それでもなお要求が続く場合は、以前の記事で整理した「打ち切り」の考え方に沿って対応する
まとめ
会計・レセプトをめぐるクレームは、内容の妥当性を客観的に確認しやすいという特徴があります。
だからこそ、頭ごなしに「規定通り」と突っぱねるのではなく、まず事実確認を行う姿勢が重要です。
そのうえで、手段・態様が不相当であれば、それは別途カスハラとして対応する。この切り分けを、医事課の現場でも共有しておいてください。


