職員の休みや休職への対応では、「欠勤」「休業」「休職」といった言葉を、病院の管理者と職員とが、それぞれ違う意味で使っていることがあります。
そのため、事務長などの管理者が、いまの状態をどう扱えばよいのか、整理できなくなる場合があります。
具体的な場面で考えてみます。
【場面】ある病院での出来事(実際のご相談をもとに、時期や内容を変えて再構成したものです)
入職して間もない職員が、体調不良を理由に、欠勤を繰り返しています。
連絡は、毎回、電話だけです。
診断書は出ていません。
病院は、本人の様子を見て、「しばらく出勤のことは考えず、療養に専念してください」と伝えました。
そこへ本人から、「休職したい」と申し出がありました。
事務長は迷います。「休職にできるのか」「いまの状態は、欠勤なのか、休業なのか」「給与や休業手当はどうなるのか」。
就業規則を開いても、すぐには答えが出ません。
この場面には、欠勤、休業、休職の違いが、すべて含まれています。
職員が休んでいるのは「欠勤」です。
一方で、状態がはっきりしないまま、病院が「出勤しなくてよい」と伝えたことは、病院の側から出勤を止めた「休業」と受け取られる余地があります。
そして「休職」は、本人が申し出れば、当然に始まるとは限りません。
この記事では、4つの言葉の違いと、休職の位置づけを、病院の管理者の方向けに整理します。
最後に、休職の規程が運用できる状態かどうか、最初に確認したい3点もお示しします。
本記事は、社会保険労務士の立場から、休職に関する基本的な用語と考え方を、一般的に整理したものです。個別の職員への対応や、休職・退職の取扱いが法的に有効と認められるかといった判断は、事案ごとに異なります。個別の事案については、顧問弁護士など専門家にご確認ください。
目次
欠勤・休暇・休業・休職|4つの言葉の違い
まず、混同しやすい4つの言葉を整理します。
見分けるポイントは、職員に「働く義務」があるかどうかと、誰が決めるものかです。
欠勤
- 働く義務のある日に、職員が働かないことです。
- 病院が認める制度ではなく、「休んだ」という事実を指します。
- 休んだ分の給与は、就業規則の定めに従って差し引くのが一般的です。
- 病気で休んでも、年次有給休暇を使えば「休暇」、使わなければ「欠勤」になります。
休暇
- 働く義務そのものが、免除される日です。
- 年次有給休暇のように、法律で定められたものがあります。
- 特別休暇のように、病院が就業規則で定めるものもあります。
- 「病気休暇」「傷病休暇」という名前の制度を設けている病院もあります。
- これは、法律の制度ではなく、病院が決める制度です。休職とは別の制度ですので、期間や給与の扱いを、規程で確認してください。
休業
- 職員に働く用意と意思があるのに、病院側の事情で、働けなくなった場合を指します。
- 病院の事業を止める場合だけでなく、特定の職員に就業を断る場合も含まれます。
- 職員の状態がはっきりしないまま、病院が「出勤しなくてよい」と伝えると、病院の側から就業を断ったもの(休業)と受け取られ、あとで休業手当(平均賃金の6割以上)や賃金を求められる余地が生じます。
- 体調不良の職員に療養をすすめるときは、診断書で状態を確認し、本人の申出や同意に基づくものとして、記録を残すことが大切です。
- 同じ「休業」という言葉でも、産前産後休業、育児休業、介護休業のように、法律で認められた休業もあります。
- 業務が原因のけがや病気で、療養のために働けない期間も「休業」と呼ばれ、労災保険から休業補償給付などが支給されます。
- 「休業」という言葉を聞いたときは、どの意味で使われているかを確かめることが大切です。
休職
- 働けない、または働かせることが適切でない事情があるときに、雇用関係を維持したまま、働く義務を免除する制度です。
- 病気など、職員の側の事情で働けないときの制度で、病院側の事情で働けない「休業」とは、原因が反対です。
- 対象となる条件も、就業規則で定めます。
- 期間や、その間の給与の扱いも、就業規則で決まります。
4つの違いを、表にまとめます。
| 言葉 | 働く義務 | 給与 | 何で決まるか |
|---|---|---|---|
| 欠勤 | ある(果たしていない) | 休んだ分は差し引くのが一般的 | 職員が休んだという事実 |
| 休暇 | 免除される | 年次有給休暇は有給。その他は規程による | 法律、または就業規則 |
| 休業 | 働く用意はあるが、病院側の事情で働けない(中心となる意味) | 休業手当(平均賃金の6割以上)。法定の休業や労災の休業は、別の扱い | 病院側の事情(法律で認められた休業もある) |
| 休職 | 免除される | 就業規則で決める(無給と定めていることが多い) | 就業規則(病院が定める) |
休職だけが、法律ではなく、病院が自分で設計する制度です。
ここが、休職の扱いが難しくなる理由の一つです。
人手に余裕のない病院ほど、体調の悪い職員に、早めに「まず休んで」と声をかけがちです。
その善意の一言で、休業と休職が混ざってしまい、あとで整理がつかなくなることがあります。
いまの状態は、どれにあたるか
冒頭の場面のような状態を、4つの言葉に当てはめると、次のように整理できます。
| いまの状態 | あてはまる言葉 |
|---|---|
| 職員が病気で休んでいて、休職に入る手続きはとっていない | 欠勤 |
| 職員が、年次有給休暇を使って休んでいる | 休暇 |
| 状態がはっきりしないまま、病院が「出勤しなくてよい」と止めた | 休業にあたる余地がある |
| 就業規則の定めに従って、休職に入った | 休職 |
休職とは|病院が就業規則で定める制度
休職は、法律で定められた制度ではありません。
設けるかどうか、どのような内容にするかは、病院が決めます。
常時10人以上の職員がいる病院では、休職の制度を設ける場合、就業規則に記載します。
10人未満の診療所でも、休職の定めがあれば、労働契約を結ぶときに、職員へ明示する必要があります。
「どんなときに休職に入れるのか」「どれだけの期間か」「その間の給与は」「回復したときはどうするのか」。
これらを病院が定めて、はじめて運用できる制度です。
規程がなければ、判断の拠り所がありません。
休職には、病気やけがによるもの(私傷病休職)のほか、公職に就任した場合や出向の場合など、いくつかの種類があります。
この記事では、病気やけがによる休職を前提にします。
混同しやすい二つ
- 自宅待機は、病院が業務命令として、職員に自宅で待機させるものです。待機そのものが業務のため、給与が発生するのが原則です。
- 出勤停止は、懲戒処分の一つです。制裁として行うもので、休職とは目的が違います。
- 休職は、制裁でも、病院の命令による待機でもなく、働けない事情に対応するための制度です。
休職は、何のためにあるのか
職員が病気やけがで働けない状態が続くと、「働く」という約束を果たせていないことになります。
そのままでは、雇用を続けることが難しくなる場合があります。
そこで、すぐに雇用を終わらせるのではなく、一定の期間、雇用関係を維持したまま回復を待ち、復職できるかを見極める。
この期間が、休職です。
※以下は、一般的な考え方の整理です。
休職は、雇用の終了を猶予する性格をもつ制度とされています。
休職の流れは、次のとおりです。
- 就業規則の定めに従って、休職が始まる。
- 休職の期間中、職員は療養し、病院は回復の状況を確認する。
- 回復して復職できる状態になれば、復職する。回復せずに期間が満了した場合は、就業規則に定めた取扱いに進む。
期間が満了しても回復しない場合の取扱いは、就業規則の定め方と運用によって、結果が大きく変わります。
慎重な対応が必要な場面です。
「休ませてあげる制度」と考えると、期間や条件があいまいになりがちです。
「回復を見極めるための期間」と位置づけると、病院にとっても職員にとっても、手続きが整理しやすくなります。
復職の判断や、期間満了のときの考え方は、別の記事で整理します。
休職の始まり方は、就業規則で決まる
休職は、就業規則に定めた手順で、始まります。
多くの病院では、休職の条件を満たした職員に対して、病院が休職を命じる(発令する)形をとっています。
この形では、病院が職員に、「ここから休職に入ります」と、一方的に伝えることが多く見られます。
ただし、始まり方は、規程の設計によって異なります。
- 病院が命じて始まる定め(発令型)
- 職員が休職願を出し、病院が承認して始まる定め
- 条件を満たせば、当然に休職となる定め
職員が「休職したい」と申し出たから、あるいは診断書が出たから、休職が始まるとは限りません。
自院の規程が、どの形になっているかを、まず確認してください。
発令型の規程では、欠勤が続いていても、病院が休職を発令していなければ、欠勤のままの取扱いになります。
始まり方が、どの形であっても、開始日、期間、休職中の取扱いは、口頭ではなく、書面で伝えるのが無難です。
発令する形の場合に、よく問題になる点があります。
休職に入る条件を満たしていたのに、発令を失念していた場合は、気づいた時点で、速やかに発令書を交付します。
その際、休職期間を、条件を満たした日にさかのぼって数えるのか、発令した日から数えるのかは、就業規則の定め方や、個別の事情によって判断が分かれます。
発令が遅れた分だけ、休職の期間が想定より長くなる場合もあります。
無用な争いを避けるために、発令通知書に、起算日と満了日を具体的に書いて交付することが、実務上とても重要です。
休職中の給与と、傷病手当金
休職中の給与について、法律に定めはありません。
就業規則で決めます。無給と定めていることが多くあります。
無給でも、健康保険料や厚生年金保険料の本人負担分は、休職中も発生します。
その負担分を、いつ、どのように病院へ納めてもらうかも、あらかじめ決めておく必要があります。
病気やけがで働けず、給与が支払われない場合は、健康保険の傷病手当金を受けられることがあります。
- 業務外の病気やけがで、仕事に就けない状態であることが必要です。
- 仕事に就けない状態かどうかは、医師の診断(意見)をもとに判断されます。
- 仕事を休んだ日が連続して3日(待期)あり、4日目以降の休んだ日が対象になります。
- 支給額は、1日あたり、直近12か月の標準報酬月額の平均を30で割った額の、3分の2が目安です。
- 支給期間は、支給を始めた日から通算して、最長1年6か月です。
- 給与が支払われている場合は、傷病手当金との差額が支給されます。給与が傷病手当金以上であれば、支給されません。
傷病手当金は、「休職」という名前で決まるのではなく、仕事に就けない状態かどうかや、給与の支払いの有無などで決まります。
なお、医師国民健康保険組合などの国民健康保険に加入している場合は、傷病手当金の制度そのものがない、または要件が協会けんぽなどと異なることがあります。
詳しい条件は、加入している保険者(協会けんぽ、健康保険組合、共済組合、国民健康保険組合など)の案内で、ご確認ください。
この記事の範囲|私傷病を前提にしています
この記事は、業務とは関係のない病気やけが(私傷病)による休職を前提にしています。
業務が原因の病気やけが(労災)の場合は、労災保険の休業補償給付や、解雇の制限など、法律上の特別な保護があります。
そのため、取扱いが異なります。この記事では扱いません。
ただ、ここで、一線を引いておきたい場面があります。
職員が「仕事が原因で体調を崩した」と話している場合です。
あるいは、病院の側にも、業務との関係に思い当たる点がある場合です。
病院では、患者様やご家族からの言動、夜勤を含む勤務、感染症への曝露など、業務との関係が問題になりやすい場面があります。
こうした場合は、私傷病として休職の運用を進める前に、業務との関係を整理する必要があります。
判断を急がず、早めに専門家へご相談ください。
休職の規程が運用できるか|最初に確認したい3点
休職は、規程がなければ運用できません。
規程が「ある」だけでも、足りません。
雛形のままの規程では、実際の職員の状況に合わず、困ることがあります。
最初に、次の3点を確認してください。
1 休職の定めがあるか
- 就業規則に、休職の定めがあるかを確認します。
- 定めがない場合、病院は何を拠り所に、期間や給与を決めるのかが、あいまいになります。
2 どんな状態のときに、休職に入れるか
- 休職に入る条件が、どのように書かれているかを確認します。
- たとえば、「欠勤が連続して○か月に及んだとき」とだけ書かれている場合、短期の欠勤を繰り返す職員には、当てはめにくいことがあります。
- 出勤はしているが、十分に働けない状態も想定した書き方になっているかも、確認します。
- この点は、別の記事で詳しく整理します。
3 休職の期間と、満了したときの取扱いが書かれているか
- 休職期間の長さ、延長できるか、勤続年数で期間を変えているかを確認します。
- 期間が満了したときに、どう扱うかが、書かれているかを確認します。
この3点に不安がある場合は、困ってから動くのではなく、いまのうちに点検しておくことをお勧めします。
個別の職員への対応は、事案ごとに判断が分かれます。
判断を急がず、専門家に相談しながら進めてください。
まとめ
- 欠勤は「休んだという事実」、休暇は「働く義務が免除される日」、休業は「病院側の事情で働けないこと」、休職は「病院が就業規則で定める制度」です。
- 休職は、法律ではなく、病院が設計する制度です。規程がなければ、運用できません。
- 休職は、雇用関係を維持したまま、回復を見極めるための期間です。始まり方は、就業規則の定めで決まります。
- 休職中の給与は、就業規則で決まります。私傷病の場合は、健康保険の傷病手当金を受けられることがあります。
- 職員が「仕事が原因」と話している場合は、私傷病として進める前に、早めに専門家へご相談ください。
- まず、休職の定めの有無、休職に入る条件、期間と満了時の取扱いの3点を、確認してください。
| 休職規程の点検をご希望の方へ |
| 規程が雛形のままだと、困ってから動くことになります。
すずえ社会保険労務士事務所では、休職規程の点検のご相談を承っています。 ご希望の方は、お問い合わせフォームからご連絡ください。 お問い合わせ内容の欄に、「休職規程の点検希望」とご記入ください。 |


