警告書を出すべきかどうか、多くの病院が迷う場面があります。
「大げさに見えるのではないか」「もう少し様子を見た方がいいのではないか」——判断のタイミングを逃し、事態が悪化してから慌てて対応を検討するケースも少なくありません。
今回は、警告から出入禁止・受診お断りに至るまでの一連の流れと、弁護士・警察と連携すべきタイミングを整理します。
本記事は、社会保険労務士の立場から、公開されている行政資料等をもとに一般的な考え方を整理したものです。個別の書面の文言・法的な対応については、必ず弁護士等の専門家にご確認ください。
カスハラの判断と、合理的配慮の判断は分けて考える
病院は、治療を必要とする幅広い層の患者様・ご家族と、日常的に向き合う場所であり、その中には様々な障害特性を持つ方が当然に含まれます。
だからこそ、この記事で明確にしておきたい整理があります。
2024年4月施行の改正障害者差別解消法により、民間事業者(医療機関を含む)にも合理的配慮の提供が法的義務となっていますが、これはカスハラへの対応とは別の基準で動く、別のプロセスです。
カスハラに該当するかどうかは、相手の属性(疾患の有無等)ではなく、行為そのものが就業環境を害しているかで判断します。
暴言や威嚇的な言動は、精神疾患等の有無にかかわらず、合理的配慮の対象にはなりません。
一方で、相手が合理的配慮を求めている場面(筆談対応の希望等)は、過重な負担にならない範囲で、別途検討する必要があります。
両者を混同せず、それぞれの基準で判断することが重要です。
段階を踏んだ対応の流れ
カスハラへの対応は、次のような段階を踏んで進めます。
- 複数名での口頭による説得・注意
- 改善が見られない場合、書面による警告(誓約書の提出とセットで運用)
- それでも改善しない場合、診療の拒絶、退去告知・立入禁止告知
- 悪質な場合、刑事告訴の通告
「組織的な対応」「毅然とした対応」「警察の介入」を念頭に置きながら、段階を踏んで進めることが、行政資料でも推奨されています。
警告書の作成方法
警告書には、次の要素を盛り込みます。
- 該当する禁止事項の具体的な提示
- 改善が見られない場合に取り得る措置(診療のお断り、出入り禁止、警察への通報等)の明記
- 誓約書の提出を求める旨
貴殿の〇月〇日の言動は、当院が定める禁止事項に該当するものです。
これまで口頭にて改善をお願いしてまいりましたが、改善が見られないため、本書面にて警告いたします。
今後、同様の行為が繰り返された場合には、診療をお断りする、施設への立入りをお断りする等の措置を取らせていただくことがあります。
また、悪質な場合には、警察への通報等の対応を取ることもございますので、あらかじめご了承ください。
誓約書とセットで運用する
以前の記事で、入院時にあらかじめ同意書へのサインをお願いしておく、予防的な運用について触れました。
今回の警告書は、それとは別に、実際にトラブルが起きた後、個別の事案について交わす誓約書とセットで運用します。
警告書を交付する際に、あわせて誓約書への署名を求め、再発時の措置についてもあらかじめ合意しておくと、その後の対応がスムーズになります。
退去告知書・立入禁止告知書を出す前に、必ず確認すべきこと
退去告知書・立入禁止告知書等の書面を発出する場合は、必ず事前に顧問弁護士へこれまでの経過を共有し、判断を仰いでください。
これらの書面は、患者様・ご家族の権利に直接関わるものであり、文言や発出のタイミングを誤ると、かえって病院側が不利な立場に置かれることもあります。
また、以前の記事で触れた通り、立入禁止とする場合は、オンライン面談等、代替となる面会手段をあらかじめ用意しておくことも重要です。
面会の機会を完全に奪ってしまうと、それ自体が別の問題を招きかねません。
弁護士・警察と連携するタイミング
- 警告書を発出する段階から、文面を一度弁護士に確認してもらうと安心です
- 暴行・傷害・脅迫など、刑事罰に該当し得る行為があった場合は、迷わず110番通報してください
- 繰り返される嫌がらせ電話やつきまとい等は、早い段階で弁護士に相談し、法的対応の要否を検討することをお勧めします
まとめ
警告から出入禁止・受診お断りに至る対応は、段階を踏んで進めることが基本です。
カスハラの該当性は行為そのもので判断し、合理的配慮の要否は別の枠組みで検討する。
この切り分けを意識しておくことが、現場の判断のぶれを防ぐことにつながります。


